Stevie Wonder - My Cherie Amour (1969)
Stevie Wonder 1969

Stevie Wonder - My Cherie Amour (1969)

Funk / Soul Soul

Stevie Wonder『My Cherie Amour』(1969年)レビュー

スティーヴィー・ワンダーの『My Cherie Amour』は、1969年にTamlaから発表されたアルバムで、10代の神童として知られた彼が、より洗練されたソウル・シンガーへ移っていく途中の姿をそのまま閉じ込めた作品だ。モータウンの制作体制の中で録音され、デトロイトのHitsville U.S.A.を中心に作られたこの一枚には、シングルとして大きく広がった表題曲をはじめ、同時代のポップスやスタンダードのカバーも収められている。甘いメロディと整ったアレンジが前に出る一方で、声の表情やハーモニカ、キーボードの存在がしっかり残っていて、当時のスティーヴィーの立ち位置がよく見える内容になっている。

タイトル曲を軸にしたアルバム

表題曲「My Cherie Amour」は、このアルバムを語る中心だ。もともとは「Oh, My Marsha」という形で書かれた曲が原型とされ、スティーヴィー、シルヴィア・モイ、ヘンリー・コスビーの共作としてまとまった。英語とフランス語を混ぜた響きが印象的で、タイトルそのものが楽曲の輪郭を作っている。1969年1月には「I Don't Know Why」のB面として出たが、ラジオDJがB面をかけ始めたことで反応が広がり、同年5月にA面として再発売された経緯がある。結果としてBillboard Hot 100で4位、R&Bチャートでも4位、全英シングル・チャートでも4位を記録した。

アルバム全体を聴くと、この曲だけが突出しているわけではない。むしろ、アルバムの中に置かれることで、スティーヴィーの歌い回しやフレージングの細かさが見えやすくなる。声を大きく張る場面だけでなく、語るように置く箇所の扱いがはっきりしていて、モータウンの整ったビートの上で、感情を過不足なく運んでいく。タイトル曲のヒット性と、アルバム全体の統一感が両立している構成だ。

録音と演奏陣、モータウンらしい骨格

本作は主にヘンリー・コスビーがプロデュースを担当し、モータウンのハウス・ミュージシャンが参加している。ベースにジェームス・ジェマーソン、ドラムにベニー・ベンジャミンといった布陣で、リズムの細部はかなり堅い。聴いていてまず感じるのは、音数を増やしすぎずに前へ進める設計だ。ベースが歌い、ドラムが押し、そこにホーンや鍵盤が整然と乗る。スティーヴィーのボーカルはその上で浮きすぎず、埋もれすぎず、モータウンのフォーマットの中でちゃんと主役を保っている。

収録曲の録音時期には幅があり、1967〜68年に録られたタイトル曲と、1969年録音の曲が同居している。アルバムとしてはまとまりがあるが、各曲の質感には少しずつ差がある。その差も含めて当時のモータウンの制作事情が見える部分だ。盤のラベルやクレジットも1969年のUS盤らしい仕様で、TamlaのS-296として出た初出盤の資料性も高い。

シングルヒットと収録曲の幅

このアルバムでもう一つ押さえておきたいのが「Yester-Me, Yester-You, Yesterday」だ。ロン・ミラーとブライアン・ウェルズの作品で、こちらもヒット曲として機能した。1969年9月にシングル化され、Hot 100で7位、R&Bチャートで5位、全英では2位まで到達している。アメリカよりイギリスでさらに強く反応した点も面白いところで、当時のスティーヴィーが国際的なポップ・ソウルの顔として見られていたことがわかる。

アルバムにはこのほか、ドアーズの「Light My Fire」、『王様と私』の「Hello Young Lovers」、映画『いそしぎ』の「The Shadow Of Your Smile」、エタ・ジェイムスで知られる「At Last」など、カバー曲も並ぶ。ここでのカバーは、原曲の輪郭をなぞるだけではなく、モータウン的なリズム感と若い歌声で再配置されている。ポップス、ミュージカル、映画音楽が同じ棚に収まる感覚で、1960年代後半のソウル・アルバムらしい幅がある。

スティーヴィー・ワンダーの中での位置

1960年代後半のスティーヴィーは、まだティーンのイメージを強く残しながらも、すでに表現の幅を広げていた。本作は、その移行期を示す一枚として見やすい。のちの1970年代に入ると、彼はセルフ・プロデュース色を強め、楽曲構成や音の作り方も大きく変わっていくが、『My Cherie Amour』にはその前段階の整理された美しさがある。モータウンの枠組みの中で、若い声がどこまで洗練されたポップ・ソウルを作れるか、その試みが具体的に残っている。

同時代のモータウン勢と比べても、スティーヴィーはこの時点で、ただのアイドル歌手にとどまらない器用さを見せている。メロディの取り方、間の置き方、カバー曲への入り方に、後の作家性につながる感覚がすでにある。大きな実験作ではないが、ヒット曲の扱い、アルバム構成、演奏の質感がそろったことで、1969年のモータウン・ソウルをよく伝える作品になっている。

『My Cherie Amour』は、表題曲の強さだけでなく、アルバム全体でスティーヴィー・ワンダーの歌の輪郭を確認できる一枚だ。ヒット・シングルを中心に置きながら、カバー、オリジナル、録音時期の異なる曲が並ぶことで、当時の彼がモータウンの中でどの位置にいたかが見えやすい。1969年という年のポップ・ソウルの手触りを、そのまま残した作品として記憶されている。

トラックリスト

  1. A1 My Cherie Amour 2:54
  2. A2 Hello Young Lovers 3:05
  3. A3 At Last 2:51
  4. A4 Light My Fire 3:25
  5. A5 The Shadow Of Your Smile 2:41
  6. A6 You And Me 2:45
  7. B1 Pearl 2:42
  8. B2 Somebody Knows, Somebody Cares 2:33
  9. B3 Yester-Me, Yester-You, Yesterday 2:57
  10. B4 Angie Girl 2:56
  11. B5 Give Your Love 3:15
  12. B6 I've Got You 2:35

動画プレイリスト

公開: 2026年9月
Share
戻る

あわせて聴きたい "Soul"

toast