Stevie Wonder - For Once In My Life (1968)
Stevie Wonder 1968

Stevie Wonder - For Once In My Life (1968)

Funk / Soul Soul

Stevie Wonder『For Once In My Life』(1968) レビュー

スティーヴィー・ワンダーの『For Once In My Life』は、1968年末にTamlaから出たスタジオ・アルバムである。18歳のワンダーが、モータウンの若きスターから、制作面でも自分の役割を広げていく途中に置かれた作品で、のちの大きな飛躍を前にした重要な一枚として見えてくる。録音はデトロイトのHitsville U.S.A.で、1967年半ばから1968年夏にかけて複数の時期に分けて行われた。アルバム全体を通して、当時のモータウンらしい明快なソウル・ポップの設計の中に、ワンダー自身の色が少しずつ前に出てくる。

作品の位置づけ

このアルバムで特に大きいのは、ワンダーがプロデューサーとしてクレジットされた最初のアルバムとされる点である。ヘンリー・コズビー、ドン・ハンター、そしてスティーヴィー自身が共同で制作を担当し、単なる歌い手から、作品の方向を決める側へと歩みを進めている。さらに、Hohner Clavinetがワンダーのアルバムに初めて登場した作品でもあり、のちの70年代以降の音作りにつながる入口のような存在でもある。

当時のモータウンは、ヒットを量産する工場のような仕組みを持ちながら、同時に個々のアーティストに“らしさ”を与えていく段階にあった。ワンダーもその中心にいたひとりで、この作品では、歌唱の勢いと作曲家としての関与が同じくらい目立つ。全12曲中8曲で作曲または共作に関わっており、単独のヒット歌手という枠に収まりきらない動きが見える。

ヒット曲と収録曲の輪郭

アルバムからはHot 100に4曲が入っている。中でも表題曲「For Once in My Life」は、全米ポップ・シングル・チャートとR&Bシングル・チャートの両方で2位を記録した代表曲で、アルバムの顔として強い存在感を持つ。「Shoo-Be-Doo-Be-Doo-Da-Day」は9位、「You Met Your Match」は35位、「I Don't Know Why」は39位まで上がった。シングルの並びだけ見ても、アルバムが当時のモータウンの勢いをそのまま受け止めていたことがわかる。

表題曲はロン・ミラー作詞、オーランド・マーデン作曲の楽曲で、ワンダー以前にも複数の歌手が取り上げていた。1966年にはバーバラ・マクネアが歌い、ジーン・デュショーンの録音も知られている。そこへワンダーのバージョンが入り、曲の輪郭が一気に定着した。後年、100組以上のアーティストがカバーしたという事実も、この録音の強さを物語る。ワンダーの歌い方は、元の楽曲が持っていた整ったポップス感に、モータウンの推進力と若い声の張りを重ねている。

「Shoo-Be-Doo-Be-Doo-Da-Day」は、ヘンリー・コズビー、シルヴィア・モイ、ワンダーの共作で、軽快なリズムの中にコーラスの動きがはっきり出る。「I Don't Know Why」は、ワンダーの母ルラ・メイ・ハーダウェイもクレジットに入った共作で、家族の名前が制作に関わる点も印象に残る。ボビー・ヘブの「Sunny」も収録されており、当時のソウル・アルバムらしく、オリジナル曲とカバーが自然に並ぶ構成になっている。

聴きどころ

実際に耳を通すと、アルバムはヒット曲の勢いだけで押し切る作りではなく、曲ごとの役割分担がはっきりしている。タイトル曲のように大きく前へ出る曲がある一方で、アップテンポの楽曲ではリズム隊とコーラスの噛み合いが先に立つ。ワンダーの歌はまだ10代の声のままなのに、フレーズの置き方にはすでに余裕があり、単純な若さだけでは終わらない。そこにクラビネットの音が入る場面では、後年のファンクへつながる手触りも少し顔を出す。

この時期のワンダーは、すでにモータウンの看板アーティストのひとりでありながら、まだ変化の途中にいる。『For Once In My Life』は、その途中経過を記録したアルバムとして見やすい。のちの『Talking Book』や『Innervisions』のような作家性の強い作品群とは手触りが違うが、歌、演奏、制作の各面で自分の輪郭を広げていく流れは、ここにはっきり残っている。

同時代の文脈

1968年のモータウンは、スモーキー・ロビンソン&ザ・ミラクルズ、マーサ・リーヴス&ザ・ヴァンデラス、テンプテーションズなどが支えたソウル・ポップの流れの中にあった。その中でワンダーは、ヒットを出す若手シンガーとしてだけでなく、制作側へ踏み込む存在として動いている。作品の明快さは同時代のモータウン作品と共通しつつ、後の自身のソングライティング重視の時代へ向かう入口としても読める。

AllMusicとRolling Stoneがともに3点評価を与えているという点からも、派手な名盤扱いというより、キャリアの節目を示す作品として見られてきたことがうかがえる。それでも、ヒット曲の強度、制作面での進展、そして後年のワンダー像につながる要素が同居したアルバムとして、1968年の時点での到達点は十分に明確である。

オリジナル盤について

USオリジナル盤はTamla TS 291。黄色いレーベルに、上部の茶色い2つの円、そして丸で囲まれたTamlaロゴという仕様で知られる。モータウン系のシングルやアルバムを追っていくと、レーベルの細かな違いも時代の手がかりになるが、この盤は1968年のTamlaの標準的な意匠を持つ一枚として整理できる。

『For Once In My Life』は、スティーヴィー・ワンダーが“若いヒット歌手”から“自分で作品を動かすアーティスト”へ移っていく、その途中の記録である。タイトル曲の強さだけでなく、収録曲全体に当時のモータウンの仕事ぶりがきれいに残っている。

トラックリスト

  1. A1 For Once In My Life 2:16
  2. A2 Shoo-Be-Doo-Be-Doo-Da-Day 2:44
  3. A3 You Met Your Match 2:36
  4. A4 I Wanna Make Her Love Me 2:53
  5. A5 I'm More Than Happy (I'm Satisfied) 2:55
  6. A6 I Don't Know Why 2:43
  7. B1 Sunny 3:10
  8. B2 I'd Be A Fool Right Now 2:53
  9. B3 Ain't No Lovin' 2:32
  10. B4 God Bless The Child 3:05
  11. B5 Do I Love Her 2:55
  12. B6 The House On The Hill 2:36

動画プレイリスト

公開: 2026年9月
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